新家氏からの書簡

当サイト宛に掲載を依頼された新家邦紹氏からの書簡です。


  「特定外来生物被害防止法」にかんする個人的意見
〜「ライギョ」が選定種に!? でも「ライギョ」だけではない〜 (#2/3)  1 2 3
 
3.金井慶幸・関口芳弘(1980)卒論「魚食性外来魚の社会的評価につい
 て」.フィッシング6月号・7月号
4.川那部浩哉・水野信彦・細谷和海(編・監)(2002)山渓カラー名鑑
 日本の淡水魚(改訂版)山と渓谷社.719pp
              * * *
 カムルチーとタイワンドジョウが「選定作業が必要な魚種」としてリス
トアップされた「理由」「被害の実態」「被害をもたらしている要因」そ
して「主な参考文献」は上記である。
 これら2種を「本当に知っている人」が読むと、「!?!?」となる箇
所もあったと思う。

 ではこのあたりから、私の実体験としての日本のカムルチーとタイワン
ドジョウが「特定外来生物被害防止法」の選定基準に当てはまるかどうか
を見ていこう。
 まずは「生態系を著しく破壊するもの、またはその危険があるもの」と
いう項目で考察してみよう。
 カムルチーやタイワンドジョウの生息する場所の多くでは、在来種が多
く見られる。「彼らのせい」で在来種であるメダカ(Oryzias latipes)やモ
ツゴ、タモロコやヤリタナゴやニッポンバラタナゴ、キンブナやギンブナ
などが減少した例など、見たことも聞いたこともない。それは両生類にか
んしても言えることだ。トノサマガエルやダルマガエル、ヌマガエルやツ
チガエルなど、水中や水辺にいることが多いアカガエル科の種にしても、
サンショウウオ科の小型種やニホンイモリにしても、カムルチーとタイワ
ンドジョウのせいで激減したものなど存在しないだろう。甲殻類や水生昆
虫にかんしても同様だ。
 もちろん、それらの種を食うことはある。しかし、生態系を「著しく破
壊する」などありえないことなのだ。「著しく」どころか、「破壊」とい
う言葉に値することすら、彼らにはできないだろう。ただでさえ日本国内
では減少しつつある種なのだ。肉食魚として、生きている他の魚や両生類、
爬虫類を食うことを「破壊」と呼ぶ人がいるとするなら、それは奇妙な感
傷に端を発する誤解である。肉食魚は生きるためには、生きている他種を
食わなければならない。度を過ぎれば「食害」や「破壊」と呼ぶことも可
能だが、カムルチーやタイワンドジョウにかんしては、それを「破壊」な
どと呼ぶには、いくら誇張しても不可能であることは、彼らの生息してい
る湖沼や河川の「生態系そのもの」が証明している。古くから彼らが定着
した場所では、すでに80年以上にわたり安定を維持している例も多い。
 次に「農作物や漁業に悪影響を及ぼすもの」。肉食魚なので、商品とし
て栽培されているヒシやハス、クワイなどを食うことはありえない。漁業
にかんしても、上記の在来種との共生を考慮してもらえば、理解に難くな
いはずだ。
 そして「人体や生命に危険を及ぼすもの」。日本国内のカムルチーやタ
イワンドジョウを生食して、有棘顎口虫に感染した例も、昭和40年代以降
見られなくなっている。この話は寄生虫学者として有名な藤田紘一郎教授
が著書『笑うカイチュウ』の中でも触れている。最も濃厚な有棘顎口虫の
分布地であった佐賀地方で、この寄生虫を調べた九州大学の教授によると、
100匹近いカムルチーを検索しても、1個体の有棘顎口虫も発見できなか
ったという。有棘顎口虫の生活環が途切れたことを示唆するものだ。
 仮に感染したとしても、それは淡水魚の生食自体に問題がある。「ライ
ギョ」に限らず、淡水魚の生食には寄生虫症感染の危険があるのだ。代表
的なものは肺や肝臓への吸虫類である。アユの生食が行なわれる地域では
横川吸虫の感染例も多いようだ。予防は単純である。淡水魚を食う場合に
は十分火を通してから、というだけのことだ。「人体や生命に危険」とい
うのは、こういう意味の危険のことではないだろうが、「ああ言えば、こ
う言う」式のツツキが入った場合の予防線として、念のためこれに記して
おく。
 産卵保護床で卵や稚魚を守っている親魚は、侵入者に対して迎撃するこ
ともある。自分より侵入者が大きい場合は引き下がることが多いし、当然
のことながら「人体や生命に危険を及ぼす」ほどのものではない。
   「お前はライギョが好きだから、そうやって弁護するだけだ」と言う人
もいるかもしれない。たしかに私は「ライギョ」と呼ばれる魚族が好きで
ある。しかし、偏愛はしていない。何故なら私は「ライギョ愛好者」であ
る以前に「自然観察者」であり「自然愛好者」であるからだ。この事実は、
私と行動をともにしたことがある人なら理解できるはずだ。私は「ライギ
ョおたく」ではなく、池や流入する溝の生物、周囲の水辺林における生態
系まで視野に入れて、本来の釣りを忘れかけることもしばしば、であるこ
とは、取材に同行した経験のある雑誌記者や、周囲の知人その他が証明し
てくれるはずだ。また、机上の空論ではなく、屋外での自分の誇張しない
見聞を大事にする。その姿勢も彼らが証明してくれるはずだ。
 どんな学者(まさかバス擁護派?)がカムルチーとタイワンドジョウを
選定に入れたのかは知らないが、これらの種族にかんしては、私のような
在野の釣り人兼観察者のほうが、はるかに真実を知っているはずだ。フィ
ールドワークなしでは本来の習性はわからない。しかし、聞くところでは
選定委員には釣り人はひとりも入っていない。そして当然、私は「ライギ
ョ」について質問されたことなど一度もない。

 私は「特定外来生物被害防止法」にかんする声が上がるずっと以前から、
カムルチーやタイワンドジョウと在来種との共生を目にしてきたし、それ
にかんする話をしてきた。カムルチーやタイワンドジョウと在来種との共
存にかんしては、2002年9月30日に発行された日本生態学会編の『外来
種ハンドブック』にも、あくまでも証言例としてだが、記載されている。
何でもかんでも、外来種を完全悪に仕立てたがる傾向が強い中、公平な意
見が出ているものだな、と当時少しだけほっとしたものだ。
 しかし、この本、カムルチーにかんしては前出の「被害の実態(代表的
な事例)生態系に係る被害」の中で「●大型になる上位捕食者で魚類や甲
殻類などを補食する。(文献1,2,5,7)」の「文献5」としてしか扱われてい
ない。

 たしかにカムルチーやタイワンドジョウの生息水域でも、在来種が減少
した場所はある。しかし、それを食害とするのは、いささか早計である。
私が見てきたそのような水域では、水生植物にも影響が出るほどの水質変
化(悪化と言ってもよいレベル)が著しかった。溶存酸素に依存する一般
の魚には致命的であろう。しかし、カムルチーやタイワンドジョウは、空
気中の酸素を直接呼吸することが可能なのだ。呼吸器官自体が異なるので
ある。水域を制覇したわけでも独占したわけでもない。その構造の違いに
より、何とか「生き延びた」のだ。
 これら2種の「ライギョ」について、その外見的特徴を快く思わない人
や、空気中でも他の魚たちより長く生きていられる(あくまでも他魚種よ
りは長く、という意味。そのまま放置されれば当然生きてはいられない)
呼吸器構造を気味悪がるあまり、実際にはありえない虚偽を述べたてる人
もいる。「炎天下に放置しても3日間生きていた。近づいたら噛みつきに
きた」「自分の体より大きなコイを食べた」など。前者は論外なのでそれ
こそ放置しておく。一方後者も絶対にありえない。何故なら彼らは噛みち
ぎるための歯や顎を持っていないからである。彼らの歯は、獲物を逃さな
いためだけに進化したものだ。捕食が下手だから、一度でも口にした獲物
は逃さないように進化した、僅かなカーブを持つ紡錘形の歯である。肉食
哺乳類のように前足で獲物を押さえることができない魚族が、肉を噛みち
ぎるにはメジロザメ目やピラーニャのような形状の歯が必要だ。つまると
ころ彼らは丸呑みスタイルだから、自分より大きな魚を食うことは、身体
構造上できない。カムルチーにおける「被害をもたらしている要因 生物
学的要因」には「体長(尾ビレは含まない)の1/3程度の大きなものでも
捕食できる」とあるが、口が体に対してきわめて大きい幼魚期を過ぎると、
大きなものを無理して捕食する傾向は、急速に減退していく。
 彼らを「獰猛」「貪食」と表現する向きが未だにあるが、それは事実を
知らない人の誇張にすぎない。ある漫画で一躍そのイメージを背負わされ
た感がある。作者の方には下のように言わせていただきたい。「あなたは
それを描いた時点では、あまりに『ライギョ』について無知すぎた」と。
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